ノーマライゼーション・教育ネットワーク
会員通信2021秋・冬合併号
  ~2021年12月6日発行~

【代表】新井淑則   【事務局】岩井隆
    〔ホームページ〕  URL:https://www.japan-normalization.com/
     連絡先〈 郵便 〉〒344-0041 埼玉県春日部市増富763-1 飯島気付
         〈 電話 〉090―2441―0938(岩井)
         〈メール〉rsj78162@nifty.com(宮城)

第26回定期総会開催までの経過と総会内容

3か月遅れの定期総会開催までの経過

 今年も昨年と同様に、新型コロナウイルスの拡大のため、緊急事態宣言と蔓延防止法が出されたため、4月、5月の教育ネット定例会は中止にせざるを得なかった。緊急事態宣言が解除された6月定例会を開き,第26回定期総会の開催予定を7月31日(土)に決めた。そこで定期総会議案の印刷製本をを26日岩槻コミセンで行った。 しかし、7月には再度新型コロナウイルス感染者が増大するにつれて、再び緊急事態宣言が出されるに至った。事務局としては残念なことではあるが7月31日の定期総会第1部 定期総会、並びに、今後の教育ネットのあり方・方向性などの話し合い、
第2部 「デジタル教科書って何?」ワークショップ 
 第3部 朝日雅也先生の講演
   「埼玉の障害者雇用 その現状と課題」

を延期することにした。8月、9月とコロナワクチン接種が高齢者から若者へと徐々に進むにしたがってコロナ患者数の減少と医療現場の疲弊が和らぐにつれ、9月に緊急事態宣言が解除された。教育ネット定例会も9月23日(土)に開くことが可能になった。10月24日(日)に定期総会と教育ネットの今後の方向性に関する話し合いを埼玉県障害者交流センターで行うことに決定した。

定期総会内容報告

 当日の10月24日になると、本会員9名と当事者1名の方とガイドヘルパーの方3名が参加した。 午後1時10分から第4,5会議室で、総会が催された。第1号議案、2020年度活動報告と2020年度活動総括、第2号議案,2020年度決算報告更に第3号議案、2021年度活動方針①②、第4号議案2021年度予算が順次審議と採決が行われ、それぞれが決定された。一方、第3号議案③については十分な討論を保証するため後に話し合いをすることにした。

続いて14時から15時50分まで第3号議案③今後の教育ネットの活動の方向性に関して討論した。近年の教育ネットの状況が、当事者支援活動や行政交渉で会の活動も社会的に認知され、新井代表の講演やマスコミ出演は効果的社会活動となっていた。しかし当事者会員の若手が少なくなり、会員の高齢化が進んでいる。事務局担当者が退職高齢者ばかりになっている。新井代表も今年度末で退職となる。現状のままの活動継続は困難になっている。このような現実を踏まえ、事務局原案として

A案、当事者支援、授業研修、行政交渉の課題をできる範囲で行い活動は続ける。
B案 会を解散する。残務整理などを行う。 これらの2案が提起され、参加者の自由な考えや意見が出された。

 最初にこの場では決定せずに、会員の意見を組み上げるなどして、後ほど定例会で決めることが確認された。そして以下の意見が出された。  現状ではA案を行うことは出来ないと思うが、会員として縁あって長い間活動して来たので親睦会としてでも続けたい。解散だけはしないでほしい。 A案中の全てはやれないにしても、できる範囲で中身を少なくして活動をしばらく継続する。 また、新しく参加された方からは、安心して話し合えるこのような場があり、良いことだと思う。  一方、高齢化が進んでおり、若手の困難を持つ現役当事者がいなくなった。支援の必要な人がいなくなっている。高齢な退職者が多いので病気そのほかで活動できなくなることがある。会を続けることは無理だろう。解散する決断もある。 新井さんは退職後、再任用はやらず創造的な独自の活動をする予定があると質問に答えていた。 大方、上記のような意見が出された。これらの中身を踏まえ、近日中の会議で検討し結論を出すことになる。 以上のような内容であった。

総会を終えて

代表 新井淑則

 コロナ禍、総会が開催できたことにほっとしている。デジタル教科書の研修や埼玉県の障害者雇用に関する講演を中止し、半日のみの開催となった。更に、例年の7月末から約3ヶ月遅れの開催となった。

 今年度は来年度の活動方針の議案を拡大し、参加者からの意見を求めた。それは、本会を解散するか、活動を継続するかという重大な問いかけである。もちろん、すぐに結論が出るとは考えてはいなかったが、会員の意見を聞くことができた。長年、本会に携わってこられた方々の思いもきくことができて、感慨深かった。

 今回の解散か継続の発議は、代表である私が来年3月で定年を迎えることに起因する。来年4月から事務局に現職教員がいないということである。もちろん、事務局に現職教員がいなくとも、会の活動はできる。しかし、それでは障害のある教員を支援するという会の趣旨が薄らいでしまい、親睦の会になってしまう。

 ここまでにいたった要因は、新規会員の獲得やITC化ができなかったなど様々なことが考えられる。反省材料は充分あるが、反面、需要がないということは、そういう時代になってきたのかとも思う。教育委員会の障害者雇用の水増し問題で、洗い出しがされた。若い障害教員は、SNSを駆使して、新たなコミュニティーを形成している。障害者差別解消法や改正障害者雇用促進法の合理的配慮のように法的な裏づけもできてきた。どれを取っても十分なものではないが、変わりつつあることには違いない。

 私自身は25年間、本会と歩んできた。本会がなければ教員を定年まで続けるどころか、復職や中学校異動も決してできなかった。本会は私の障害教員の歩みそのものである。それゆえ、本会に格段の思い入れがあり、本会に携わっていただいた方々には感謝の思いしかない。

 定年後は、自宅と畑を利用して、「みんなで作る『リルの家』(仮称)」を考えている。『リルの家』は、誰もが立ち寄れる居場所であり、みんなで協力して畑で野菜作りができればと思っている。宮澤賢治が稗貫(ひえぬき)農学校を退職した後、花巻の下根古桜(しもねこざくら)で独居しながら、昼は畑で農作業、夜は農業の相談やレコードコンサートをやったように・・・。

  

第26回定期総会に参加された方の感想・意見

 10月24日開催の第26回ノーマライゼーション・教育ネットワーク定期総会に参加された方々から感想や意見が寄稿されました。総会の内容を深めたり、総会後の本会の方向を提起する傾聴すべき意見等が記されています。ご一読ください。  (編集部)

   

総会の話し合いの感想

                宮城道雄

 総会での第三号議案の③教育ネットの今後の在り方について13名の参加で実施された。

 教育ネットの活動をこれまで通りに続けるという案と会を解散するという案の2つが並記して出された。

 教育ネットが発足して25年が経過しようとしている。発足した時点では、視覚障害を持ちしかも人工透析の二重障害者、聴覚障害者、車いす使用の下肢障害者や内部障害者の方など多くの当事者が存在し、教育ネットの支援活動と、行政交渉が必要な当事者が何人もいた。埼玉でも活動がマスコミに掲載され当事者が数名会に加入して活動に積極的に参加していた。最近の現状は、これに比べて、新井さんが退職してしまえば、困難を抱える会員の当事者がほとんどいなくなってしまう。江口さんも4年目を迎え、困難な状況から抜け出している。今回参加された岡安さんは、全盲状態であるが復職ができ、適切な受け入れ条件が整備されているようだ。課題はあるにしても本人の希望が受け入れられる環境がある。障害者差別解消法が制定され、管理者に合理的配慮が求められるようになった。また、昨年から埼玉県でも障害者活躍推進プランが作成され、実施されている。他の県でも同様な状況がある。最近の状況は会の発足時の状況とは異なっている。

 退職して10年になろうとしている会員が事務局を担っているのでは様々な無理がある。支援の必要のある困難な当事者が存在せず、行政交渉の必要性がないならば活動の必要性は無くなっている。教育ネットの存在をネットやマスコミで知らせ、多くの障害を持つ当事者を会員として結集して会を継続する方法があるが、そのような活動はそれなりに実行してきている訳だ。長年の活動をして、人との繋がりができ、解散しないで、親睦会としてでも残した方が良いという意見も出された。その思いは分かるが教育ネットの活動の目的とはずれていると言える。代表の新井さんがこれからどうするのかという声に対し、新井さんは退職後再任用はせずに創造的な独自の活動をすると言う考えがあるそうだ。新井さんの講演やマスコミでの報道が大きな社会活動であり、重要な要素となっていた教育ネットとしては、大きな変化になる。

当事者同士が集まり、職場状況の改善や、授業に関しての研修活動は必要なことだと考えられる。そのためにはやはり当事者が結集して、研究したり、仲間や先輩の経験を聴ける場所が必要だと思う。これらは当事者が居るからこそ成り立つ。しかしその当事者がいなくなったのは仕方ない。残念なことだ。

2021年度総会に参加して

中村 雅也

 2021年10月24日(日)午後1時から、埼玉県障害者交流センターで教育ネットの第26回総会が開催された。活動報告、決算、活動計画、予算などほとんどの議案が異議なく承認されたが、1つだけ簡単には結論の出せない議案があった。今後の本会の在り方、活動内容についてである。

 新井淑則代表が本年度末をもってめでたく定年退職されることとなり、会の運営を長年支えてきた中心メンバーも高齢化してきた。障害のある教員をめぐる諸事情も昨今急激に変化しつつある。教育ネットの活動も見直す時期に来ているのではないかということだ。事務局からは具体的に2つの案が示された。詳しくは議案書を確認していただきたいが、簡単にいうと、1つ目は従来通りに会の活動を続けるということ、2つ目は会の目的はほぼ達成されたので役割を終える、つまり解散するということである。

 これに対してまず出された意見は、26年間も続いた会を解散して、全くなくしてしまうことへの残念な思いだった。活動を担う人材が不足している厳しい現状からすると、従来通りに月々の定例会の開催、年4回の通信の発行、教育委員会との交渉等々の精力的な活動は難しいにしても、何らかのかたちでつながりを持ち続ける意義はあるという意見だ。また、新井先生が今後も講演会やメディア出演で障害者理解の社会的活動をされるのであれば、会の存続でそれをいくらかは応援できるのではという発言もあった。確かに近年、新井先生の社会的活動が教育ネットの1つの柱になっていたことはまちがいないだろう。ただ、新井先生ご自身からは定年退職後は再任用として教壇に立つことはせず、すでに次の創造的な活動計画があることが話された。私も長年の実績と信頼できるネットワークを築いてきた教育ネットにはまだまだ存在意義があると思うし、完全に解散してしまうというのはもったいないと感じる。

 だが一方で、会の運営を取り仕切ってこられた岩井隆事務局長からは、現行の体制では活動の継続は限界にきていること、引き継ぐ人がいないなら、期限を切って活動の総括を行い、会としての活動に終止符を打ちたいということが切実に語られた。事務局に大きな負担がかかっていることは共通認識だといってよいだろう。しかし、負担にならない範囲で教育ネットという組織は残せないかという思いも多くの人たちにあるように思う。親睦会というかたちでつながりを残すという考えも出されたが、親睦会を運営するにも誰かがその役割を引き受けなければならない。教育ネットの目的意識が共有されていたからこそ、労をいとわず運営に携わる人もいたのだ。親睦会にすれば会の維持が簡単にできるというわけでもない。私も困難な状況にある障害のある教師の支援に対しては何らかの貢献ができると思うし、よろこんで微力を尽くしたいと思う。だが、会の運営といった事務仕事を担うことまでは正直いって手が回らない。また他方で、現在、現職教員も含め、20数名の会員がいる中で、急激に活動を停止するよりも、段階的に活動を縮小するほうが望ましいという意見もあった。事務局のみなさんには今しばらくご苦労をおかけするが、現実的に考えれば、すぐにすべての活動を停止するということもできないように私も思う。

 3時間に及ぶ総会の中で、各会員がそれぞれに教育ネットとの関係を振り返り、真摯に考えを述べあえたことは有意義だったと思う。だが、限られた時間の中で全員の合意を得て、結論に達するのは無理だった。今回の総会においては、すぐに教育ネットを解散することは承認しない、しかし、従来通りの活動を継続することは求めないということが確認された。今後は定例会などで検討を重ね、意見を集約して、来年度の総会をめどに明確な方向性を決定することになる。幸いにしてしばらくは会員通信も発行されるので、本年度の総会に出席できなかった会員のみなさんも、教育ネットの今後について、ご意見やお気持ちを投稿されてはいかがだろうか。

 

総会の内容から

                                   飯島光治

 初めに 今回参加13名(ガイドヘルパーさん3名含む)の方、ごくろうさまでした。   古くからの会員も見えました。  

1 議案書の表について、印刷したものに表のミスが分かり、改めて訂正したものを印刷しました。4人が岩槻に。総会前で良かった。この表は、岩井さんが県と交渉して分かったものです。公にされてないものとありました。

2 この表の雇用率について、例えば、小学校 0,54%とはその時点での埼玉の小学校教員に対しての割合ということが分かりました。その年の採用数が66人ではありません。 以下同じです。

3 今後の教育ネットの在り方について  まず、この総会でA案、B案かを決めるのか。に対して活発に意見がありました。 約2時間。C案も。即ち解散しないで今後親睦会の形で(と私は理解しました。) B案 賛成は、今後支援する現役の方が、いなくなる。目的を失うがあると思います。 また、定例会参加について遠くから来る方もいて、今後は大変という面も。

私はA案に近いのですが、ここで解散はまだ早い。今後相談する方がいるとも考えられます。B案で私が、心配するのは、25年の総括、まとめをする。があります。 すると編集委員会がですが、20周年記念誌の時は、参加できましたが、今後はきついがあります。76歳になります。

最後に司会進行の岩井さんが、「解散はしない。やることを減らしていく。」とまとめました。今後定例会で少なくすること等を検討していくことになります。  無理のない形でやっていくで、このまとめで良かったと私自身は、思いました。

来年の総会では、より具体的に提案できるのではと思いました。

追記 私の所属する算数、数学教育のサークルでも、同じ問題があり、今回の議論は 参考になりました。          (2021年11月記)

◆教育ネットの今後

                                    森谷良悦      

今年は、新型コロナウイルス感染症拡大のため、第26回定期総会が予定の7月31日 (土)から10月24日(日)に延期され開催された。その中で、教育ネットの今後が話し合われた。定例会ではA案B案がだされたが、総会ではC案が追加された。 教育ネットの活動がA案はなかなか難しいとの指摘もありますが、個人的な意見としては A案C案に賛成です。今後の定例会で具体的な方向を出し、来年の総会で決定するということです。

 A案 当事者支援、授業研修、行政交渉の課題をできる範囲で行い、活動は続ける。

 B案 会を解散する。残務整理などを行う。

 C案 親睦会として続ける。

障害を持つ教職員が働きやすくなるように、様々な合理的配慮が近年なされるようになり、 そのため教育ネットがなくても対応できるようになりつつあるということで、若い方の入会もほとんどなくなり、教育ネットの解散も論じられるようになりました 以前、埼玉県教育委員会に3つの提言を提起しました。その後どうなっているのかという疑問があり、特に県教育委員会が目指す「専担組織」を「苦情処理機関」としての機能と 障害関係の総合的な窓口としての機能を併せ持つ人事担当組織に改組するなど又その後どうなっているのか話し合いを継続する必要があるのがいっぱいあるように私には思えます。 障害者雇用率もそうです。小中高の先生の雇用率が停滞しているかいくらか改善されても 障害を持つ教員を目指す人たちがなかなか増えないことは問題であると思います。 教育実習が大変だとかしり込みしているのではないかと思われます。 教育委員会の方々も、障害を持つ小中高の教員の激増もなかなか難しいので、他のところでカバーしようと思っているのは間違いではないと思います。

 教育ネットで話し合うことは捜せばまだまだあると私には思えます。ですから1,2カ月に1回くらいテーマを決めて話し合ってもいいと思います。担当は輪番で行い、レポート化するのがしんどいならただ話し合いをするだけでもいいと思います。

ただの親睦会でノーという人も複数いらっしゃるようですので、今教育ネットに残っている人は経験年数が長い人たちばかりなので話には困らないように思えます。  余っている会費は、最終的には福祉関係の団体などに寄付をすればよいと思います。 以上が私の考えた今後です。

不定期連載―――岩井隆のハクジョウ日誌

リルが入店拒否され、そして に遭っていたらと考えると、ぞっとする。未だに食事処を探し、さ迷っていたかも知れない。私は、っていたらと考えると、ぞっとする。未だに食事処を探し、さ迷っていたかも知れない。私は、

 五輪を栄養源のようにして感染者を急増してきたコロナ第五波は、9月に入りようやくおとなしくなってきた。教育ネットは昨年に引き続き7月の定期総会が流会となってしまった。定期総会だけでない。毎月の定例会の中止も繰り返されてきたが、ようやく9月25日(土)に埼玉障害者交流センターで再開されることになった。この日、私とヘルパーのSさんは大宮駅で新井淑則さん及びリルと合流してそば屋「H」で昼食をとり、タクシーで交流センターに向かうことになっていた。「H」というそば屋は、以前に私が独りで行ったことがあり、なかなか良いそばを出していた。何十年と営業を続け老舗と言っても良いだろう。店には靴を脱いで上がり、板の間のテーブル席と奥に座敷がある。ランチメニューもあり、乙なそばを手繰って定例会に向かおうという企てである。

 「H」の暖簾をくぐるまではまず順調だった。が、いきなりリルの入店を断られてしまった。「盲導犬ですよ。」と言うと、女性の従業員は奥に相談に行った。従業員個人では判断がつかず、すぐに奥から「盲導犬なら入店可能だ」という返事があるものとばかり思っていた。ところが、顔を出した主は「盲導犬でもダメだ。」と言う。新井さんもヘルパーのSさんも何故かと問う。「前例がない。何かあったら困る。犬の毛が落ちる。」と主が訳を答える。今日はテーブル席はいっぱいで畳敷きの座敷しか空いていないようである。主人は、座卓に敷かれた座布団に3人の客が座り、もう1枚の座布団の上にリルがちょこなんと座っている姿でも想像したのだろうか? 「前例がない。何かあったら困る。犬の毛が落ちる。」と繰り返す。「前例がないからこそ、1度盲導犬を入れたら、何も問題がないことが分かりますよ!」と水を差し向けても、主は貸す耳を持たなかった。10分程も押し問答を繰り返していたが、「法令違反なので、行政に連絡します。」と告げると私たち3人とリルは外に出た。

 新井さんとSさんは怒っていただろう。私にも怒りがあったが、それよりも何故?どうしてこんなことに!という動揺が心を占めていた。いいそば屋だと思っていた「H」の主人があのような頑なな姿勢をとるなど想像していなかった。図らずも新井さんとSさんに不愉快な思いをさせてしまった。障害者や盲導犬の受容は、これが世の中の現実なのだろう。悲しかった。さらに、それに思いが及ばなかった私の不明も情けなかった。  と言って、落ち込んではいられない。午後1時までに交流センターに行かねばならない。どこかで昼食もとる必要がある。大宮駅に戻る道沿いに「T」というそば屋があった筈だ。駅から延びる大通りには銀行やスーパーの店舗が並ぶが、そば屋「T」の影はない。こうなったら、食事内容を選んでいる場合ではない。すぐそこにあった小さなインドカレーの店の扉を開いた。

「犬は入れない。」と言う主人らしい男性の声が聞こえた。言葉の抑揚から、外国人のようである。インドカレーの店だ。インド人(パキスタン人やネパール人の可能性もあるが、ここではインド人と書いておく)だろう。私はここでも入店拒否かと絶句しそうになった。何としても続けての入店拒否は避けなければならない。この主人の故国での視覚障害者や盲導犬の情報は持ち得ていないが、盲導犬自体が認知されていないことが予想される。リルと一緒に入店するには、やさしい日本語で分かり易く盲導犬そのものの説明から始めなければならない。「日本では盲導犬といってーー」と説明を試みようとした。その時だった。「work dog!」と大きな声がした。新井さんが簡潔にひと言で盲導犬を説明したのだった。かのインド人の主人は理解したのかどうか分からないが、私たち3人は空いていたテーブル席に素早く座り、リルもテーブルの下に潜り込んだ。多少強引だったが、主人はリルの様子を見て「この犬は大丈夫だろう」と納得したのかも知れない。やはりインド人の女性店員が注文を取りに来た。オーダーさえしてしまえば、こっちのものである。何種類もあるメニューの中からシーフードカレーを選び、辛さは中辛を3人とも注文した。カレーにナン・スープ・サラダが付く。バスケットにたたまれて出てきたナンを広げると驚いた。顔の面積の3~4倍もある。こんな大きなナンは初めてである。カレーのルーが熱くいつまでも冷めない。Sさんの言うには、冷めない秘密はその容器にあるらしい。銀の器であまり見かけない物だと言う。ことによったら故国から取り寄せた物かも知れない。とにかくナンは大きく、カレーは熱い。ナンをちぎってはカレーにつけ、ひたすら口に運んでいた。早く食べて交流センターに向かわねばと、気ばかりがあせってしまう。それでも新井さんとSさんは完食、私はナンを半分残してしまった。いつか、ゆっくりと、このカレーを味わってみたいものだと思った。

 会計を済ますと、3人と1匹はタクシーに乗り込んだ。既に午後1時に近かった。20分は遅れるだろう。しかし、タクシーに乗ったのだからひと安心だ。もし、インドカレー屋でも入店拒否に遭っていたらと考えると、ぞっとする。未だに食事処を探し、さ迷っていたかも知れない。私は、九死に一生を得た思いだった。ん? 少し大袈裟過ぎるか!絶体絶命のピンチに起死回生の逆転ホームランという場面のようだ。「死」「生」や「命」の文字がやたらと目につく。実際、私は命までは懸けてはいないのだから。何とかなって助かった、くらいの気持ちである。入店拒否を巡る出来事や私の心情を上手に表現することわざ・格言はないものだろうか?探してみよう。

禍転じて福となる 最後が目出たし、目出たしになれば、全て水に流そうと言うのか。これでは、入店拒否も大団円につながるエピソードの1つに過ぎなくなってしまう。

受領は転んでもただ起きない 己への禍や不都合があっても、それを利益や役得に変えてしまうバイタリティーがあふれている。だが、まとわりつくマイナスイメージは拭い難い。

二度あることは三度ある 入店拒否が二度も三度もあっては堪らない。でもこの先全くないこととは限らない。その覚悟だけは必要かも。

飛んで火に入る夏の虫 インドカレー屋の主人の目には、こう映ったろうか? 客の方から飛び込んでくる、3人と1匹はいい鴨である。いや、虫だった。

犬も歩けば棒に当たる いろは歌留多のいの一番、リルもわざわざ大宮に出てこなければ、「入店拒否」という棒に当たらなかったろうに。この客観的事実を確かに言い当ててはいるのだがー、

人間、万事塞翁が馬 人の世を見透かす眼力と余裕を持てという教えだろう。哀しいかな、凡夫には諦観と同義になってしまう。

捨てる神あれば拾う神あり 上手くいかないことがあっても、そのうちどこかで何とかなって、助かるものだ。正反対の結果が間をおかず生じる理不尽、神の加護しか説明のしようがない。

 車中でことわざや格言の品定めにふけっていた。いつの間にかタクシーは静かに停車している。障害者交流センターに着いたのだ。時間を確かめると、1時25分。わずか25分の遅刻で済んだのだ、助かったぁー!

 この2時間にも満たない出来事を振り返ってみた。そば屋の主がリルの入店を拒否したのは、障害者や盲導犬に無理解だったからだろう。岩井の不明もないことはないが、偶然と言えるだろう。運が悪かったのだ。一方、カレー屋の主は理解があった訳でもないが、リルは入店できた。これも偶然だろう。運が良かったのだ。2つの出来事を第三者の眼から見ればこうなる。が、当事者は単なる偶然では片づけられない。運の良し悪しが決定的な意味を持ってくるからだ。そこに何かがあると思えてくる。人間なんて弱いもので信仰を持たない私でも、その何かが神様のように思えてくる。たぶん、遠い昔から多くの先人たちが抱いたそんな気持ちが「捨てる神あれば拾う神あり」のことわざになったのだろう。生きるうえで神様が最後のセーフティーネットならば、それは神頼みに昇華する。だから、捨てる神も拾う神も特定されることはないだろう。

 どこの神様だかよく存じませんが、3人と1匹をお守り下さり、ありがとうございました。

 追記 週明けに、さいたま市の障害政策課に新井さんと私はそれぞれに電話をした。盲導犬の入店拒否のあらましを担当のノーマライゼーション推進係のIさんに説明し、行政として「H」に啓発と指導を行うことを要請した。

 

会員の皆さんへの        緊急のお願い!

 本誌巻頭の報告「定期総会開催までの経過と総会内容」に記されているように、教育ネットは今、大きな転換点に立っています。それは、この先の教育ネットのあり方に関わる大事な問題となります。その巻頭文をお読みいただければ分かるように、来年度以降の教育ネットのあり方として、

取り組む内容を絞って会の活動を継続していく(=A案)

会の目的をある程度達成したので会を解散する(=B案)

会を親睦組織にして会を存続させる(=C案)

の3つの方向が示されています。(詳しくは第26回定期総会資料及び本誌巻頭「定期総会開催までの経過と総会内容」を参照)非常に難しく熟慮が必要な問題であり、1年から2年の時間をかけた話し合いが必要です。本来ならば、昨年2020年度の定期総会から討議を重ねてこなければならないことでした。が、第1波から第5波のコロナ禍によって定期総会そのものが中止に追い込まれたり延期されたりする事態になってしまいました。そのためにこの大事な問題が会員相互で十分に話し合われることにはなりませんでした。それでもその状況を少しでも打開するために、本年10月24日に予定よりも3カ月遅れで第26回定期総会を開催し、参加された方々の意見を伺いました。しかしながら、この総会の開催も急遽決めたことであり、参加された会員も限られています。

 そこで、皆さんにお願いです。今後の教育ネットのあり方を定めていくこの大事な問題について、皆さんのご意見を本会事務局に寄せてほしいのです。方法は3つです。手紙(郵便物)・電子メール・電話のいずれでも結構です。以下に宛先・メールアドレス・電話番号を記します。

 〈 郵便 〉〒344-0041 埼玉県春日部市増富763-1 飯島光治宛

 〈メール 〉rsj78162@nifty.com(宮城)

 〈 電話 〉090―2441―0938(岩井)

郵便とメールは個人宛送付になりますが、「教育ネット事務局」宛の内容にしてください。また、記載した電話番号は事務局長岩井の番号であり、他の事務局メンバー(新井・飯島・宮城・森谷)に電話をされてもかまいません。たくさんの意見をお寄せ下さい。なお、年明け1月からの事務局会議での資料にしたいと考えておりますので、年内いっぱいの返信でお願いいたします。

 会員通信の2021年秋号は、コロナ禍により定期の刊行ができませんでした。遅ればせながら3か月遅れで定期総会を開催し、ようやく会員通信も発行することができました。今号は、2021年秋号と冬号の合併号として刊行いたします。今後とも定期刊行ができますよう最善を尽くしていく所存です。                        (編集部)