ノーマライゼーション・教育ネットワーク会員通信2018年冬号


公開授業の報告と感想

                            飯島光治   2018年11月22日(木)、新井淑則教諭の11回目の公開授業が皆野中学校、2年1組第5校時(13:40〜14:30)で行われ ました。  参加者は、会員の勝原、尾崎、宮城、森谷、岩井さんと飯島の6名、非会員の杉山さん。校長先生の挨拶では、「皆さんは、お客さん の感じがない。毎年会っているので」とありました。  授業は37名で、平家物語の中の「扇の的」で、那須与一が、平家の扇の的を撃つところです。まず生徒が全員起立し、平家物語の最初 を暗唱していきます。次に教科書を朗読していきます。この後、新井教諭が琵琶法師となっ、教壇の上に座り、琵琶を弾き、朗唱します。 時に高い声が響きます。ここはCDで流すことが多い。と落合先生から聞きました。聴くポイントは、(1)与一の心情が伝わるか。(2) 情景描写が目に浮かぶかと黒板に。弾き終わり、生徒が感想文を書き、数人の生徒が発表し終わりました。私は生徒の50分間の生徒の集 中力がすごいと思いました。  尚、琵琶を弾くは、2年2組でもすると聞きました。  授業の参加者は、初めに書いた方々の他、校長先生、3名の皆野中学の先生方、、朗読ボランティアの沢野さん、水村さんでした。  第6校時(14:40〜15:30)に研修会が12名参加で行われ、進行は岩井さんが担当しました。まず授業の感想が、各自から出され、 ここでは暗唱、琵琶の演奏は、生徒に一生残るのではないかが数名の方から、出されました。色々な感想は新井教諭に参考になったと思 います。新井教諭からは、こうしてできるのも落合先生と瀧口先生のおかげで感謝しているとありました。お二人の先生は、長瀞中学校 時代からの同僚です。落合先生は、現在も週1回皆野中学校に来ています。瀧口先生は、今回の授業のパートナーです。新井教諭からは現 在大変スムーズにいっている。馴れ合いにならないようにとありました。今回もよく自然に補助しあっていると思いました。瀧口先生は 現在副担任で、余裕ができ、よく話し合いができるとありました。   今回の研修会のテーマの一つに、「T、Tの在り方について」があり、一般論として二人ですると、ぶつかるところも出てくるのでは ないかが出ました。参加者からは、「教員は一人ひとり主張が強いところがある。」「お互い、言いやすい人間関係が大事」等が今まで の経験から出されました。課題として残ります。  その後、宿舎で17時から18時に主にホームページの作成について、新井教諭のネットワークより、江藤昌洋さん(58歳)が、熊 谷から来てレクチャーを受けました。説明は内容に詳しく、質問にも答えてもらい参考になりました。   ところで、江藤さんは、サリドマイドの被害者で、左腕が無く右腕も変形した形で使う。食事は足を使い、車の運転は足でする。今 回夕食を共にしました。現在は、立派に自立されています。 宿舎では7名泊で、翌日は晴天に恵まれ、宿舎からの眺めも素晴らしかっ た。その後、10時からの長瀞のライン下りを楽しみました。(約30分)日常とは違う時間を過ごしました。尚、尾崎さんは、都合で参加 せず、会員の内沼さんが合流しました。その後、昼食をとり、解散しました。皆野中学校まで、人により長時間で、皆さんごくろうさま でした。

平家物語[扇の的]の授業を参観して

                             勝原裕子 今回は、2年1組37人の生徒と授業を行いました。人数が多く教室いっぱいに生徒がいましたが、静かに授業を受けていました。盲導 犬のリルがどこにいるか、授業の初めから終わり迄分かりませんでした。今までは、いつも盲導犬がどこにいるか分かっていました。教 室いっぱいに生徒がいたためか、リルがいるのがあたりまえに思え、気にならなかったのか分かりませんが。 初めに冒頭の祇園精舎の所を全員で暗唱して唱えました。しっかり唱えられました。次に女生徒だけで唱えました。声は小さかったけれ ど、綺麗な声でした。その次に男生徒だけで唱えました。大きく力強い声でした。その次に、又、全員で唱えました。初めの時より大き なはっきりした声でした。お互いに暗唱を聴き合う事でさらに上達できた様に思えます。 扇の的の所を全員で朗読しました。後ろから見ていたので、全体で何人いたかは分かりませんでしたが、後ろの方の男生徒と女生徒が教 科書を見ないで暗唱していました。中学生ではあまりききませんが、家で朗読して保護者にチェックしてもらったそうです。これは、朗 読、暗唱する上で有効で、親子の交流にもなって良い試みだと思いました。朗読、暗唱は、読解と違って生徒の能力にあまり関係なく、 努力して練習を続ければ、必ず上達します。生徒自身も自分でどの位上達したか分かります。中学の授業では、なかなかクラス全員が発 表できる機会はありませんが、朗読、暗唱は全員が発表できる貴重な機会です。 T2の瀧口教諭があらすじをたどり、季節、時刻、戦況等を確認し、平家と源氏がどの様に海と陸に並んでいるか、略図を板書しました。 扇を見せ、どのあたりを鏑矢が打ち抜いたか、確認しました。800年前から琵琶法師が平曲を語っていた事を知らせ、教科書を見ない で聴いてみようと言って聴くポイントを次の様に板書しました。 聴くポイント ○ 与一の心情伝わるか ○ 情景描写が目に浮かぶか 黒い作務衣を着て琵琶を持った新井教諭が登場して、平曲を語りました。生徒にとって、一生忘れられない授業になった事でしょう。 生徒達に感想を書かせましたが、平家と源氏で音程を変えている、毎日、何回も音読していたので、情景が思い浮かんだ、矢を扇に当て る所が印象に残った等の感想がありました。新井教諭はもっと詳しく深く感想を言う様に促していました。短時間でしたし、そこ迄要求 するのは、無理だと思います。生徒の素朴な感想で十分だと思います。 私は、今までの授業の中で、今回の授業が一番好きです。生徒全員が朗読、暗唱できたし、新井教諭の特質良く現れ、新井教諭が長年学 んだ平曲を語り、ベテランの瀧口教諭と意気のあった授業ができ、1+1は2以上の学習効果があがったと思います。

新井さんの授業を見せて頂いて

                             尾崎裕子  2018年11月22日、皆野中2年1組の国語の授業を見せて頂きました。題材は「平家物語 那須与一」の場面でした。事前に、 新井さんが平家琵琶を奏でて語る と聞いていたので、楽しみにして行きました。  滅多に見ることのない実物の平家琵琶とライブで聴く「語り」には感動しました。全国の中学生が「平家物語」を学んでいることと 思いますが、目の前で先生が奏でて語るのを体験できる生徒は0に近いでしょう。この日の生徒さんたちにも、強い印象を与えたこと でしょう。この先ずっと、新井さんから「平家物語」を教えてもらったことを忘れないと思います。教師冥利につきるような授業がで きる新井さんと、偶然ながら、新井さんの授業を受けることができる生徒さんを羨ましく思いました。    ATの瀧口先生との呼吸も合っていて、ギクシャク感が無かった事も素晴らしいと思いました。私は複数担任制を経験したことがあ りますが、対等な関係になりにくく、主従関係になっていく辛さを味わいましたので、その点でも両先生に拍手を送りたいと思います。  私は、熱っぽく語る先生の授業が好きでした。先生自身がこの話を好きなんだなと思うと、聞く方も熱くなるものです。「走れメロ ス」や「オツベルと象」の授業見学の時にも、新井さんの「熱さ」を感じ取ることができました。今後の新井さんの精進を期待してお ります。

新井教諭の授業公開に参加して

                            森谷良悦  今年も又、埼玉県皆野町立皆野中学校で、11月22日、全盲の新井淑則教諭の国語の授業公開が行われた。2年1組を担当し、同僚の 国語の瀧口教諭とのチーム・ティ−チングの形式で行われた。第5校時(13時40分〜14時30分)が授業で、第6校時(14時 40分〜15時30分)には、話し合いがもたれた。  授業の内容は、「平家物語」をテーマに、最初は巻第一の「祇園精舎」を生徒が起立して全員で読み上げ、次に新井教諭が平家琵琶 で第12景「那須与一、扇の的を射る」を演奏しながら平家物語を語った。この授業のため、生徒は何回も何回も読む練習を行ったそ うである。  平家物語の巻第一は「祇園精舎」であまりにも有名な一節である。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらはす。」で始まるのですが、現代語に訳すと「祇園精舎の鐘の音には、万物は変転し、同じ状態ではとどまること はないという響きがある。沙羅双樹の花の色は、盛んな者も必ず衰えるというこの世の道理を示している。」というのです。  私も年少の時、これを読んで深く感動したのを覚えています。  続いて、新井教諭は教卓の上に座布団を敷いてあぐらをかいて座り、平家琵琶で第12景「那須与一、扇の的を射る」を弾き語った。 これも有名な話である。1185年2月、讃岐屋島に逃れた平家を追って、義経は海路阿波に上陸、陸路屋島に迫り、背後から平家を 急襲した。驚いた平家軍は船に乗って海に逃げたが、激しい攻防が繰り返された。日が暮れて両軍が兵を引きかけているとき、沖の平 家軍から年若い美女をのせた小舟が一そう漕ぎよせてきた。美女は、紅地に金の日輪が描かれた扇を竿の先にはさんで船べりに立て、 陸の源氏に向かって手招きをしている。これを見た義経は、弓の名手・那須与一に扇を射抜くよう命令した。与一は、馬を海に乗り入 れ約70m先の扇の的に矢を放ち、見事扇を射抜き、扇はひらひらと海に落ちた。この様子を見守っていた源平両軍は、どっと歓声を 上げて与一をほめ讃えたのだった。  教育ネットで長年新井教諭と顔を合わせているのですが、平家琵琶を演奏するとは全然知らず、新井教諭の新しい一面を覗くことが できました。

授業見学に参加して

                           宮城道雄  今回の授業見学は、11月22日に行われ、2年1組37名のクラスで国語の「平家物語、扇の的」が取り上げられた。母校の皆野中学校 に戻って3年目を迎え、パートナーの瀧口先生との授業の協力関係も円滑に運び、今までの積み重ねの結果と思われた。また、生徒が 集中して授業に取り組んでいた。  授業の流れとしては、最初に新井先生が、課題を黒板に書くことから始まった。そして、生徒に平家物語の冒頭の部分を全員で語ら せた。男子全員で1度、女子全員で一度、そしてクラス全員で1度実施した。皆大きな声を出して集中して取り組めているので感心さ せられた。その後扇の的、那須与一を全員で朗読した。これも皆声が出ていて真剣にできていた。中には暗記できている生徒もいるよ うで、かなり練習してきたからだろうと思われた。そして、琵琶法師が登場することになる。サモワを身にまとった新井先生が、実際 に琵琶を奏でて、平曲平家物語「扇の的」を披露した。新井先生の謡の声の抑揚と、琵琶の弦の微妙な響きが静かに広がっ。たそれは、 各生徒に伝わり心を揺り動かした。 その後、ポイントを絞って感想を書かせ、発表の時間が持たれた。生徒は先生の声の抑揚が変化 する場所など、把握していた。与一が鏑を放つ前の様子や放ってからの様子を思い浮かべることができている生徒も大分いたようであ った。扇の的が射抜かれ、ひらひらと舞い上がって海面に落ちていく様子が思い浮かんだ。そのような感想が生徒からいくつか出され ていた。  4年前に新井先生が平曲を勉強し始めたということを聞いていたが、その成果としての扇の的を生徒の前で披露したことは素晴らし いことであると思う。教室の中に本物の琵琶をもって現れた琵琶法師の奏でる琵琶と平曲を聞くことは貴重な体験であり、本当に心に 刻みつけられたと思う。さらに、生徒の音読が生徒のほとんどがしっかりと声を出して真に読み上げていたことである。生徒は事前に 一週間、毎日家で家族に読みの練習を聞いてもらい、読書カードをチェックしてもらい練習を続けてきた成果が出ていた。その中で自 然に暗記ができた生徒も出てきたようだ。語りの文学、平家物語は声を出して読んで、覚えるくらいになり、滑らかな語りの調子を味 わうことが大切であると思われた。その取り組みがあってこそ、直に平曲を味わい、その情景を想像することができるようになった。

琵 琶 の 音

                           杉山玉子  七年ぶりの教室でした。掲示物の写真、メッセージ、色彩、四十人の鼓動が伝わってきます。秋の日に山は輝き、白鷺が西へ飛んで いきます。皆野中学校の皆さんにお会いできるのを楽しみにしていました。そして新井先生の平曲「扇の的」鑑賞場面を中心に授業を 参観させていただきました。  新井先生、長年の練習、修行の生の平曲。琵琶・平曲を通して先生の皆さんへの深い思いなくして聴くことはできません。十分間の 演奏後の皆さんの発表に驚き、一人一人の言葉に感心させられました。  ○本時の課題は 平曲「扇の的」を鑑賞しよう。  ○聴くポイント ・与一の心情が伝わるか          ・情景描写が目に浮かぶか。  教科書を見ないで、聴いてみよう。と瀧口先生により板書されました。  発表は「源氏と平氏の声の違い」「鏑矢の音浦響く程長鳴りしてーー」音の強弱「ひいふっとぞ射切ったるーー」から扇の様子等ポ イントを踏まえた発表でした。文字からでなく琵琶に合わせた独特の曲節の語りを聴き取るのは難しいと思います。更に与一の心情を 想像するまでの余裕はなかなかありません。因みに私は、秩父連山の向こうに瀬戸内海の合戦、滅亡まで一か月の追われる平氏をぼう っと思い浮かべていました。  生徒一人一人の思いがどんなふうに認められているか興味深いものがあります。多くても少なくても白紙でもポイントから外れてい ても的外れでいてもそこに思いは込められていると思います。自分の言葉を偽ることなく表現してゆくところに解はあるのかもしれま せん。一人一人の思い、感性の交感を体感できることは喜びでもあります。  新井先生の平曲の生演奏を聴けるのは世界で皆さんだけです。後姿はもう三年生のように大きく見えましたが、中学生活は一年余り です。縄文時代から続く皆野なか学校の良き環境、歴史、文化は皆さん一人一人が担っています。言葉の不信の時代、自分の言葉を紡 いでいきたいものです。  車窓に映った十五夜の月。月は過去に人を連れていくのでしょうか。与一もしゃ頸の骨を射られた平氏の武将も同じ月を見ていたの です。琵琶の音の余韻の中に、生徒の皆さんの健やかな日々を祈ります。  生徒・職員の皆様、心温まる貴重な時を過ごさせていただきました。深くお礼申し上げます。

琵 琶 は、も の 言 わ ず と も

                            岩井隆 新井淑則先生の授業を皆野中で参観した。今年は古典教材で「平家物語」、2年1組で瀧口先生との授業だった。 中学2年生の国語の古典となると、教科書によって多少は異なるが、「枕草子」「平家物語」「漢詩」の3点セットだった。何百年〜千 年も昔にこの日本列島に住み暮らしていた人たちが読み聞き味わいあるいは自らの情感や思想の根幹を育んできたもの=古典としての 位置づけだろう。中学生としての学びも歴史的仮名遣いが読めるようになり、文章としての特徴・内容の概容をつかむ程度で、「昔の 人はこんなものを読んでいた(聞いていた)んだ!」というあっさりした学習だった。   私ごとで恐縮だが、古典の授業としてこんな授業ができないものかと夢想したことがある。M町のM中学校に勤務していた時のこと である。文楽人形浄瑠璃をご存知だろうか? 古典芸能の1つで義太夫の語りに合せて演ずる人形芝居である。もちろん中学国語の教科 書には載っていない。資料集の国語便覧などには簡単な紹介がある。本場は大阪で、東京でも定期的に講演がある。私はこの文楽が好み で年に何回か聴きに行っている。入場料は障害者割引で2割引き、人形の動きは全く見えないので義太夫を楽しむだけなので半額でもい いのではと思うと、何だか得をしているような損をしているような気分になる。M中学校には私以外にも文楽に通っている教師が2人い た。1人は私より何歳かお若い音楽のK先生、もう1人は20歳代の美術のK先生である。音楽のK先生は三味線の伴奏に引かれて、美 術のK先生は人形の美しさ魅せられてのことらしい。これは千載一遇のチャンスだと思った。  まだ幼いお鶴が巡礼となって父母を捜し訪ねる「傾城(けいせい)阿波(あわの)鳴戸(なると)」あたりは中学生にも十分に理解鑑賞できる 外題である。美術の授業では教材にはなりにくい。が、音楽のK先生と知恵を出し合えば、教科横断のおもしろい授業になると考えた。 音楽では、三味線音楽それも太棹三味線と義太夫節の成り立ちや特徴を学び、CDなどで義太夫節を聞く。中学生の耳には義太夫はまる で外国語である。何回か聞いて慣れてくると日本語として聞こえてくるのが不思議だ。できることならば三味線の実物も用意したい。国 語では、「傾城阿波鳴戸」の床本(ゆかぼん)(義太夫の世界では歌詞を書いた台本をこのように呼ぶ)を音読し、登場人物・あらすじ・情景 などを確認しておく。江戸時代後期約二百年前の大阪の町人の言葉である。平安時代や鎌倉時代よりはずっと現代語に近く、分かり易い。 最後に音楽と国語のジョイント事業として「傾城阿波鳴戸」の上演舞台を撮影したDVDの上映である。この視聴から内容がまあまあ分 かり、幾分でもおもしろさを感じられれば上出来である。  しかし、授業に至るまでには幾つものハードルが予想された。まず「傾城阿波鳴戸」のDVDが見つからない。普通に市販などはされ ていない、国立劇場で製作されていないかと探したが、三大戯曲「と呼ばれる義経千本桜」などは販売されていても「傾城阿波鳴戸」は なかった。次に「傾城阿波鳴戸」の原文も必要である。岩波書店の「日本古典文学大系」などにあるかも知れないが、視覚が極端に狭く なっている私が該当箇所の文章を見つけるのはえらい苦労がある。「傾城阿波鳴戸」のジョイント授業は私の夢想の域を出ることはなか った。  おっと、いけない。前置きが長すぎた。新井先生の授業の話だった。授業開始の号令そして挨拶に続き、授業の参観者そして新聞記者 がいることが告げられた。次に黒板に新井先生が文字を書き始めた。私には見えないので、隣に座るSさんに何を書いたか尋ねた。そこ には本時の学習課題が書かれていると言う。それは「平曲『扇の的』を鑑賞しよう」という文言だった。私は迂闊にもその時点では気づ かなかったが、この課題は極めて意図的であり、大きな目標である。これについては、後ほど述べる。  授業の展開は至ってシンプル、生徒全員で冒頭の「祇園精舎の鐘の声———」を暗唱し、さらに「扇の的」をやはり全員で音読する。 生徒の中には教科書を見ないで暗唱している者も何人かいたらしい。そして瀧口先生が生徒たちとのやりとりで「扇の的」の場面の人物 や情景をおさらいしていく。(その間に新井先生は廊下に出て着換え、琵琶を用意していたらしい。)瀧口先生が「今日は琵琶法師が皆野 中に来ています。」と言うと、作務衣姿の新井先生が琵琶を携えて登場する。そして平家琵琶の演奏となる。  こうした授業は、中学校の2年生の「平家物語」の授業では全国のどこでも行われている一般的な流れだろう。もちろん琵琶の演奏の 実演はない。実演の代わりに教科書会社が副教材として用意してあるCDを生徒に聞かせることになる。それは昔の琵琶法師の古い演奏 であったり、つい先日亡くなられた上原まりさんの現代風にアレンジした平曲であったりと教科書会社によって多少の異同がある。時間 にして2〜3分、長くて5分くらいだ。ほとんどの生徒にとって初めて聞く平曲であり、笑いが起こったりテンポの遅さに途惑ったりする。 「昔の人はこんなものを聞いていたんだ!」という感想を抱くだろう。それで良い。このCDの演奏そのものを教材としている訳ではなく、 CDはあくまで付け足し・おまけなのである。私もそのようにして「平家物語」の授業の最後にCDを聞かせていたし、この授業もCD の代わりに実演をするのだととらえていた。  ところが、新井先生のこの授業では平曲の演奏は付け足しやおまけではなかった。もう1度学習課題を確認しよう。「平曲『扇の的』を 鑑賞しよう」である。平曲の演奏そのものを聞いて、情景を思い浮かべ那須与一の心情を感じ、琵琶の演奏や唄(語り)を味わうのである。 演奏が終わると、生徒たちは感想を書いた。そして発表となる。生徒が書いた正確な文言をここには記せないが、次のような感想があった。 「新井先生は矢が放たれた場面やその音を強調するように演奏していた。」「射抜かれた扇がゆったりと海面に落ち波間に漂っている情景 が目に浮かんでくる。」これらは教科書の文章を読んでの感想というよりも演奏を聞いてのそれである。  私は「そこまで、やるか!」と驚いた。新井先生と瀧口先生はそこまでやり、そこまでできたのだ。その要因を私なりに分析してみた。 1つは「扇の的」をしつこいくらいに音読させ、登場人物や情景そしてあらすじをとらえさせておいたこと。もう1つは平曲の生の演奏の 持つ力だろう。演奏前に撥が琵琶の弦に軽く当る微かな音色・演者の息遣いなど臨場感、さらにこれから演奏が始まるというワクワク感が 私には堪らない。そして教室内に琵琶の音色と唄声が響いていく。そこに醸し出された言葉だけでは説明しきれない非日常の何かを生徒た ちも感じていたのではないだろうか?

11.25草加市福祉祭り参加報告

                            宮城道雄  去る11月25日(日)に草加市福祉祭りが実施されました。駅前のイトーヨーカドーの7階のホールで午後1時から講演会が開催され、心 の中からのバリアフリーという演題で、ノーマライゼーション・教育ネットワーク代表の新井淑則さんが講演を行いました。800人が入れ る会場が一杯になるほどの人たちが講演を熱心に聞き入っていました。本会からは7名(新井、岩井、飯島、内沼、丸山、森谷、宮城)、 が参加しました。2また、0周年記念誌を持ち込んで、新井さんの「光を失って心が見えた」の本の販売と並行して、記念誌の販売も実施 しました。  公園開始前に本会の草加市在住の丸山さんの仲介で、浅井草加市長さんと福祉祭り実行委員長の斉藤市会議員さんに面会することができ、 本会としてあいさつをしました。同時に20周年記念誌を一冊づつ寄贈しました 。  新井さんの講演は、最初ビデオ上映を行い、新井さんの講演を含めて1時間程の話でした。新井さんが病気で失明し、死をも考えるほど の絶望のどん底に落ち込みました。しかし、そこから立ち上がり、多くの視覚障害の仲間と出会い、前向きになり教壇復帰を実現したこと、 その後の活動についての話がありました。学校現場では、現在障碍者と出会うことのない中で、2025年度の団塊の世代が後期高齢者となり、 介護が問題となるとき、介護する若い世代が障害者と接したこともない人が多いことは大きな問題があるのではという危惧が語られました。 会場の人たちは皆熱心に講演に聞き入っていました。

山口雪子裁判報告会が東京で開催される

 岡山短大准教授の山口雪子さんが大学当局による教壇外し処分の無効を訴えて一昨年に提訴し、岡山地裁・広島高裁と勝訴を重ねて来た ことは、本誌でも報告してきており会員・読者のみなさんもご存じのことと思います。大学側は勝ち目がないにもかかわらずあきらめるこ となく上告し最高裁で争われていました。が、司法判断が11月27日にありました。最高裁は大学側の上告を棄却し、広島高裁の判決が 確定しました。 この裁判の勝訴報告会が12月16日午後2時から戸山サンライズで開催されました。支える会の事務局長の重田さんの司会で始まりまし た。まず水谷弁護士・もり岡弁護士・清水弁護士の3名が登壇し弁護団の報告が行われました。裁判は原告山口雪子さんの全面勝利で、判 決は大学側の業務命令が無効であることを確定し、百十万円の慰謝料の支払いを命じました。 続いて山口雪子さんのあいさつがありまし た。これまでの支援に対する感謝の言葉と教壇復帰への決意が述べられました。 さらに日盲連・jVT・タートルの会など多くの支援団体からのあいさつがありました。  残念ながらこの勝訴で全てが解決した訳ではないのです。判決がすぐには教壇復帰には結びつかないのです。「山口雪子先生が来年4月 から授業を行うためには平成31年1月中に授業の割り当てがなされることが必要です。しかし、この時までに授業の割り当てをしないこ とが懸念されます。」(弁護団報告)山口さんからも支援団体からも教壇復帰に向けた多彩で粘り強い運動の必要性がか語られました。  最後に岡山短期大学・厚生労働大臣・文部科学大臣への要請分が採択されました。緊急に開催された集会にもかかわらず、会場には約70 人が参加して予定よりも30分オーバーして午後4時半に終了しました。教育ネット事務局からも飯島・宮城・岩井の3人が参加しました。 (岩井)