11月24日 新井先生の公開授業を参観

 秋も深まったこの日、皆野中学校を訪ね、授業を参観したのは飯島さん・岩井さん・尾崎さん・勝原さん・島田さん・宮城さん・森谷さん、そして大阪から来た中村さんの8人です。授業は第5校時、1年2組の国語の授業です。

授業公開、つづけて10年!
 早いもので新井淑則先生が中学校の教壇に復帰して10年を迎えました。新井先生が勤務した長瀞中学校・皆野中学校では、視覚に障害を持った教師が授業をしたり担任をすることは普通のことと受け止められる雰囲気が芽生えているのではないでしょうか。こうした芽生えがさらに長瀞・皆野だけにとどまらず秩父の地に広がることを望むものです。
 新井先生は中学校の教壇に戻ると、自らの授業を毎年公開してきました。それは、障害があっても工夫と適切なサポートがあれば授業ができることを示しています。また、授業やその後の討議で指導法の向上を目指すものでもありました。こうした地道な取り組みが障害を持った教師の存在を受け容れていく雰囲気が芽生える一要素になったと思われます。そして10年、新井先生の授業公開は、長瀞中・皆野中と引き継がれ本年で10回目を迎えます。



富田先生をティーチングアシスタントに授業
 もう会員のみなさん・読者のみなさんも本通信等でご存知のように、新井先生の授業が昨年までのTT(チームティーチング)からTA(ティーチングアシスタント)の形態に変っています。(この経過等については本号記事「TTからTAへ」をご覧ください)新井先生は、2学期からティーチングアシスタントとして赴任してきた富田先生と組んで授業を行っています。富田先生は1日の勤務が5時間、週4日間勤務の非常勤講師です。これまでのTTとTAは何がどう違うのか、実際の授業ではどのような働きをするのだろうかが、私たちが今回の授業を参観するに当たっての関心事・注目点でした。
 授業は『ベンチ』をクラス全員で音読することから始まりました。音読後には課題「フリードリヒ・ヘルガの心情が分かる表現に傍線を引こう」に沿って、生徒たちは本文を読み返し、傍線を引いていきます。富田先生は生徒たちの間を回り、生徒の様子を観察しています。それだけをみれば、これまでのTTと変わりはなさそうです。6校時の話し合いでは私たちとともに授業を参観した落合先生(長瀞中でTTとして新井先生と授業をしました。退職後は週1回新井先生のボランティアをおこなっています。)から「TAも単なる補助ではなく、生徒に目を向ける必要がある」旨の意見が出されました。さらには授業だけでなく教材準備・評価なども含めてTAの役割を考えていく視点が必要だろうと考えます。



学校行事と連携させて
 『ベンチ』は教育出版の中1国語の教科書に載っているドイツ人リヒターの小説です。1940年前後のドイツによるユダヤ人への迫害を主人公(ドイツ人少年)の体験と眼を通して描かれた作品です。現在皆野中では光村図書の教科書を使用しており、そこには『ベンチ』は載っていません。以前用いていた教育出版の教科書をコピーして教材としたものです。新井先生が『ベンチ』をあえて教材にして授業を展開したのには、大きな動機があったそうです。それは、翌週の30日(木)に皆野中では全校生徒を対象とした人権講演会があり、そこではイスラエル人のダニー・ネフセタイさんがユダヤ人差別をテーマにした講演をする予定になっているからです。講演会を前に生徒たちが初歩的な知識を持ち、関心を抱くようにするのがねらいです。それも1年生の2学級だけでなく、全学年の全クラスでの取り組みとして、この日の朝読書の時間に『ベンチ』を生徒一人一人が読んだそうです。

ダニー・ネフセタイさんと懇談
 毎年公開授業を終えると秩父に宿泊し、新井先生の慰労と会員の懇親を兼ねた宴を開いてきました。今年は、授業や人権講演会とも関わりがあるので、講師を務めるイスラエル人のダニーさんをお招きしてお話を伺う企画を立てました。お声掛けしたところ、快諾されたダニーさんは午後6時頃にいらっしゃり、夕餉を共にしました。ダニーさんは在日歴30年を越え、現在皆野町に住んでいます。日本語は達者で日本各地で講演を行っているそうです。
 ユダヤ人問題となると、やはり私たちにとっては遠い問題のように感じます。「今もユダヤ人への差別はあるのですか?」という質問もあり、ダニーさんのお話は現在のイスラエル国・世界各国に在住するユダヤ人のことにまで広がりました。しかし、ダニーさんが語りたかったことはユダヤ人の問題だけではなかったのです。こんな言葉が印象に残ります。「私の講演は『外国人の人権』ではなく『外国人の見た人権』です。」 日本在住の外国人をふくめた日本社会の人権状況を見据える視座こそ問われています。アルコールもはいり、ダニーさんも私たちも雄弁でした。

追記
 この日、NHKの記者が来校し、授業と話し合いの様子を撮影していきました。さらに新井先生・富田先生にそれぞれインタビューもしていました。これまでもNHKが公開授業を撮影したことがありました。その時は「首都圏ニュース845」で放映していました。が、今回は放映はありません。NHKは新井先生に関する映像を撮りためるようです。その撮りためた映像を編集して作品(番組)の制作を企画しているのかも知れません。どのような番組になるか楽しみです。